2020年夏「光射す展」ふりかえり絵巻物
2020.8.24-9.6 みずうみにて展開された空間インスタレーション「光射す展」を振り返ります。
世情や天候が厳しい中のべ120人もの方にご来場いただき、ありがとうございました。
造形アーティスト:梶山美祈(KajiyamaMiki)さんとの出会いは、2020年のはじめに詩人/美術批評家の京谷裕彰さんが当施設「みずうみ」に美祈さんを連れて来てくれたことが始まりでした。
美祈さんは子どもの頃に溺れて以来、しばらく水の中で暮らしているような感覚があったそうでその影響なのか、水の世界を四角く切り取り宙に浮かせるような造形作品をメインに制作してきたそうです。
そして引き寄せられるかのように、大阪・空掘に浮いている「みずうみ」と出会い、この小さな青い空間全体を使った作品を展開することになりました。
それからほどなくコロナ風が吹いて、これまでみずうみがメインで開催していた読書会やワークショップなど複数人が集まるイベントは開催不可、作品の展示ならば何とかできる状況になったので、美祈さんに連絡を取り2020年夏に展示をする運びとなりました。
美祈さんの制作は思っていたより大規模なもので、畳サイズのアクリル板とハーフミラーを重ねて天井を作るなど作品制作というよりかは改装工事のようでした。
奇しくもみずうみのすぐ隣の直木三十五記念館でも同じように大改装が行われていて、これからどうなるのか全くわからない、未知の時代へと内外共に生まれ変わる雰囲気に満ちていました。
そしてこの一連で符号のような事がたくさん起こるのですが、
美祈さんが本作品のタイトルを「光射す」と決めるや否や、直木記念館の改装の一環としてみずうみの真裏(表から見える壁面)に、直木三十五の像が白黒ハイコントラストに照らし出され、いつのまにかこんな言葉が書き足されていました。
「芸術は短く、貧乏は長し」ーー胸に刺さる名言ですが、わざわざこれからアートの展示やるというこの小さい空間の真裏(表)に新ためて書くことでしょうか??
改めて今回の作品は、みずうみという小さな青い空間全体を使ったインスタレーションで、
空間の天地全面に配置した半透明の青い板に鏡のように像が映り合い、
さらに空間の天地に割れ目を作り透明の天糸を上下に渡して連ねて「光」を表した体験型のアート作品です。
作品の入口から物質としての「光」がアプローチすると同時に、上下の境を取り払い現実から突然縦長の海の真ん中に来たような感覚と、梶山姉妹自作の音楽も相まってしばらくそこに居ると、ずっと沈んでいくような安堵感と同時にずっと上昇していくような浮遊感を感じさせる不思議な空間になりました。
展示中は鑑賞者用の懐中電灯でそれぞれが照らす光により、毎回新しい光を訪れた方と一緒に発見していく「生きたアートと暮らす」日々を送ることができました。
以下に美祈さんによる本作品の序文と、作品に寄せた私(みずうみ運営者)のふたつの文章を掲載します。
世界はバランスを崩し
空がヒビ割れた
そこから宇宙の光が降り注ぐ
ここから何が始まるのだろう
「画面が割れた」
<割れた空から宇宙の光が射し込んで来た>
拡散するウイルスによって孤独な画面の中に追いやられる私たちーー
本作品のキャッチフレーズである「割れた空」とは「割れた画面」のようにも思える。
ー海を切り取るアーティスト:梶山美祈のインスピレーションによって、
野生のメディア”みずうみ”の画面が割れて宇宙から光が射し込んで来たー
それは加速するデジタル化により画一化されていく物質の(経済の人間の)”価値の崩壊”をきっかけに、
等しく液晶を支えていた「光」がその画面を打ち破り、
リアルの価値を照らすに転じた「光」の原始的(プリミティブ)な意志(こころ)なのかもしれない。
ーことばを塞がれ息苦しい私たちは水の中、
価値をなくして浮遊する私たちは宇宙(そら)の中、新しい光に出会うー
<ここから何が始まるのだろう>
「蜘蛛が光を紡いだら」
美祈さんがこの作品を仕掛けてから、
「みずうみ」は部屋の中なのに水の中なのに、ずっとどしゃ降りみたいで、
それなのにそれは光でありそしてそれなのにそれは止まっているというアンビバレンスな状態となった。
この作品の中に居ると私は光と時間の関係について改めて自身の感覚で向き合うことになる。
美祈さんはまるで蜘蛛が巣を張るように空間「みずうみ」の天と地を結び、
またそうすることで天と地を取り払い、その間にヒビが生じて、
入った者を捕らえる物質としての”止まっている時間”を照らし出したのだ。
そして時間の象徴である音楽が、
私たちを底のない深海へ沈め、果てのない宇宙へ浮上させるーー
☆★☆「光射す展」に際して、会期中に(光きらめく)3つのイベントを開催しました ☆★☆
★1つめは8月24日初日、みずうみのイメージモデル:miyakoさんと本展のコラボレーション撮影です。
奇しくもmiyakoさんのお腹には赤ちゃんができていて、新しい命に光が射して新しい時代/ものごとが始まることを象徴的に予感させました。
私はこのことと今回の海の中にいるような展示から胎内をイメージし、美祈さんが作った音楽の速度をゆっくりに変えて鼓動音を加えました。
撮影はカメラマン:shiroさん(テーマの「光」とマッチしたお名前)、現在進行形でそこにいるだけでは見えなかった新しくも永遠なる「光」と予感に膨らむ「影」を写し出していただきました。
★2つめは8月29日土曜日、本展作家:梶山美祈によるアーティストトークです。
美祈さんは溺れたことがきっかけで海を切り取るような作品を作ってきたことから今回の制作、また創作の源となっている独特の神秘体験について語りました。
美祈さんの話は不思議で、寝て起きるとときどき白いモヤが見えてそれは光の粒の集まりであり、その光の粒々をチタチタと呼んでるそうなのですが、ときどき美祈さんに話しかけたり、説教してきたりもするということです。
古今東西アーティストの中には神秘的な経験をしている人も少なくはないらしく、トークに参加された別のアーティストも自身の不思議な体験について語りました。
それは寝室で金色に輝く人から接吻を受けると白い玉が自分の喉からおなかに流れ、それがおなかの中で爆発すると白い光の世界に包まれ、それは世にも心地良くその感覚が現実に3日は続いたというお話でした。
アーティストによる「光」の神秘体験の話を続けて聞かせてもらい、切っても切り離せないアートとスピリチュアルの親和性を実感する夜となりました。
みずうみは本展のテーマにちなんで、ことばを食べるかんじクッキー「光」を提供。最後は皆さんで花火をして夏の終わりを静かに煌めかせました。
★3つめは9月5日土曜日、ハープ奏者:水川亜紀さんによるエンディングコンサートです。
ここでもまた「奇しくも」を使ってしまうのですが、本作品の天糸を連ねて張り巡らせた「光」は楽器ハープのようにも見えると思っていたある日、偶然にもハープ奏者の水川さんがお客さまとして現れ、飛んで火に入る夏の虫以上の運命を感じ、その場で本展のエンディングコンサートをお願いしました。
光を爪弾き空間そのものを奏でる水川さんの演奏が、美祈さんが作り出した垂直の海と共鳴してそれを水平に拡張し、この小さな空間からどこまでも広がっていくような、この時空をいつまでもここに留めておきたいという思いが実現するかのような、永遠を感じるエンディングとなりました。
そして、新しい命を宿したmiyakoさんの撮影から現在へと繋がるのですが、展示中、光射す海の中で小さな「龍」の赤ちゃんが誕生しました。
展示を見に来てくれたまだ10代のドラゴン作家:辻笙くんがその場でほんの数分で小さな紙の龍を作るやいなや、どしゃぶりの大雨が降ってきたという印象的な誕生でした。
それからひと月足らず季節は秋に変わり、ど迫力の実寸サイズに成長した龍が現在みずうみに降臨しています。
新しい命を宿すmotherの写真をイメージとして、これから新しい龍の物語を、訪れる方々とリアルタイムで一緒に綴っていけたらと思います。
また新しい展示では、写真でも印象的だった「光射す」のカウンターとして大きく落とされた「影」が姿を露わにする予感がします…!
詳しくは現在ゆっくりと成長中の企画展【現在進行形みんなで作る物語インスタレーション「青い龍のものがたり(仮題)」】のお知らせをご覧ください。
https://mizuumi-plan.com/dragon/
天地に配置した鏡合わせのように偶然の相似が重なった【光射す展】
新しい時代の始まりとともに美祈さんはその歪みから[未知の光]を見出し、
作家自身の、訪れた方々の、また小さな野生のメディア「みずうみ」の新たなる[道を照らし]導いてくれました。
本展に関わっていただいた全ての方に感謝します。
2020.11.07 ことばを食べるカフェみずうみ 壽谷祐実 Sudani Yumi