オフィーリアを見上げて from bottom of lake
ゴールデンウィーク中、フランスで美術史を学ぶ大学院生がインターンとして併設ギャラリーを手伝ってくれていた。
斉藤さんの研究テーマは19世紀の世紀末美術で、仰向けで半身川に浸かり花に囲まれて浮いているミステリアスな女性を描いた絵画「オフィーリア」を中心に研究している。
シェイクスピア著「ハムレット」の登場人物オフィーリアは、恋人であるハムレットに父親を殺され気が狂って、自分も川で溺死してしまう。そのシーンが様々な画家によって描かれた。またその当時に限らず絵画という形に限らず、ミステリアスなオフィーリアのモチーフは現代のさまざまな形態のアートでも引用されている。
私も「みずうみ」という場所をやっていることから、そのイメージに惹かれた。
今彼女に話を聞いているこの場所「みずうみ」は地下にあり、湖の底というイメージ設定があるため、ここでオフィーリアを見るとしたら下から、オフィーリアが浮いてるようなイメージで見ることになる。
もしここでオフィーリアオマージュの展示をするとしたら、天井に水に浸かってる方の半身の映像を投影し、色とりどりの花を宙吊りにして、、オフィーリアの舞台は川だから流れていきそうだけど、ここは湖だから段々と沈んで溶けていく(イメージが膨張・拡散していく)のかな、などと想像してみた。
水面はあちら側とこちら側を分けると同時に同じにして溶かす。
この場合、いずれ死という水面が肉体と魂を正反対のところへ分かつけれど、水も空も青いから、沈むのも浮くのもイメージ的には相似している。青を分ける水面から2つのイメージがどんどんと離れてやがて消えるというのは美しいなと思った。
湖の底から見るオフィーリアの表情はわからない。
斉藤さんの好きなオフィーリアはガストンが描いたもので、有名なミレイの絵に比べて目に光が差して少し笑っているようにも見え、そこにより狂気を感じるという。またオフィーリアはその状況で歌ってさえいるという。
歓喜と狂気というのも紙一重なもので、オフィーリアは両極を分ける水面に横たわって境界を揺るがし人びとを惑わせるミステリアスな輝きを湛え続けている。
地上に生い茂っている鮮やかな5月の緑の気配がオフィーリアを取り囲む緑と重なった。