12/17-1/8 江幡京子展「月の砂漠」
ーーー併設ギャラリー「モナド・コンテンポラリー」による展示ですーーー
2022年12月17日(土)~2023年1月8日(日)|金・土・日 14~19時
〈ステートメント〉ある日、母からメールが来ました。父の下の顎に癌が見つかり、手術をしないことに決めたそうでした。父は22年間脳出血の後遺症を患って闘病生活を送っていたので、わたしも反対しませんでした。それからいつの間にか父は自宅で看取られることになりました。父の癌はどんどん進行し、お医者さんによると余命2週間で、痰が喉に詰り癌で死ぬ前に窒息死する恐れもあるとのことでした。そこでわたしはしばらく実家に帰ることにしました。肺の奥までチューブを入れる痰の吸引は毎日2回、2ヶ月近く続き、父は地獄のような日々を送りました。母とわたしはそれをじっと見ていました。看取りのことを何も知らなかったわたしたちは父に2回お別れをしました。それからまた数週間して、父は黒い便をしました。亡くなる前に人間の体は汚物を全て外に出すそうです。それは真っ黒な液体でした。3回目に父は本当に亡くなりました。今思い返すと、わたしが父のそばにいることで、悪戯に父の苦しむ時間を延ばした気がします。父が亡くなる瞬間を見ないといけないと思い込み、つきっきりで看病してどんどん判断力が鈍っていきました。ほんの100年前なら、情けを掛けてあげるのが筋だったはずです。そして、多分それをしなければならないのは長女のわたしだったはずです。愛情は暴力でもあります。わたしたちは本当に父が大好きでした。― 江幡京子
〈展覧会情報〉
monade contemporary | 単子現代では、アーティスト江幡京子による「月の沙漠 | The Desert Moon」を開催します。江幡はこれまで、世界各国で開催した高齢者の自宅室内の写真シリーズの展覧会、東チモールの若者に向けた写真ワークショップなどを行うなかで、人々の生と死をめぐる孤独と暴力に向き合ってきました。また最近では、自宅を他者との共同生活、作品制作における協働のスペースとする住み開きのプロセスを公開しながら、国家、地域、個人、そして自然とのかかわりのなかで生と死、あるいは新しい生存や生活のためのコミュニティのあり方を模索してきました。近年、江幡は自身が撮影した父の看取りの録画を振り返りながら、父や家族とのかかわり、人の生死のあり方に目を向けた物語をショート・フィルムとして制作しています。本展は、江幡自身の父を失った悲しみを乗り越えるプロセスを観客と分かち合い、父や家族、生と死、そして今後の世界に向き合う喪の機会となることでしょう。愛は死と出合うときどのように暴力へと転化し、死とともに愛はどのように記憶を生かすことになるのでしょうか。喪失という契機から起こる、愛と暴力の叙情詩にご参加ください。
〈アーティスト情報〉江幡京子 http://kyokoebata.com/ アーティスト。東京出身、ジュネーブ、オックスフォードで高校時代を過ごし、ロンドン大学ゴールドスミス校卒業。グローバル社会、大都市での生活、戦争と平和、デザインとタブー、記憶と場所、高齢者社会、東日本大震災、環境問題、家族、愛情などをテーマに生活者の目線から時代を表現する。現在は国立市の庭付き古民家をプロジェクトのスペースとして制作やキュレーションを行いつつ、国内外で発表している。主な展覧会・受賞に、横浜トリエンナーレ 2020 Volcana Brainstorm、 江幡京子展:The Perfect Day to Fly(ギャラリー・ハシモト、2018)、あいちトリエンナーレ 2010 現代美術展企画コンペ、現代美術地中海ビエンナーレ 2010、カルチャー・オブ・フィアー(Halle 14、2006)、 MEDIARENA:日本の現代美術(the Govett-Brewster Art Gallery、2004)、ヤング・ビデオ・アーティスト・イニシアティブス受賞(森美術館準備室、2002)などがある。